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引用元: 【油田は】憧れの1人暮らしで隣人に恋した パート6【俺のアイドル】

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234: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 08:40:53.60 ID:KQ5xjk6o
第14章 渡辺の大失敗

季節はすっかり秋になっていた。

その日は久しぶりに川田さんと居酒屋で飲んでいた。

この当時の俺は、川田さんのディレクター業務の50%を奪っている状態だった。

会社とプロデューサーは、当然外部に流れる経費を抑えたい。
そのためには月給制の内部ディレクターを使いたい。

しかし内部ディレクターは、プロデューサー同士で奪いあいになる。
経費削減は、プロデューサーの大命題であるからだ。

しかもこの当時、うちの会社は慢性的なディレクター不足であった。

そんな状況から、運良くではあるが
デビュー作を創った、俺にも序々にディレクターの仕事が増えてくる。
もちろんパブのような簡単な仕事である。

236: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 08:56:38.33 ID:KQ5xjk6o
当然、制作部の同期だって死に物狂いで頑張っている。
ただ彼らがデビューしていないのは、担当番組がパブのような簡単なものではなく
長尺物(放送時間が長い番組)だからである。

そうなると最初の1本はなかなか創らせてもらえない。

俺がディレクター業務を出来たのは運である。
実力では全くない。

余談だが、いくら簡単な作品とはいえ
入社半年でディレクター業務が出来るのか?
そう思う人もいるだろう。

答えはYESでありNOである。
ディレクターはライセンス職業では無い。
ここからディレクターになったという線引きはない。

ADでも演出をすれば、その現場ではディレクターだ。
その逆もまたしかり。

結局はどれだけディレクションの数が多いか?その割合にしか過ぎない。

部長昇進や課長昇進のように
「君は今日からディレクターです」と
言われてなるものではないのだ。

簡単な仕事でもなんでも、1本やってしまえばディレクターを名乗ることは出来る。
(そんなヤツは実際にいないが)

早い話がみんな全て「自称ディレクター」の世界である。

あの堤幸彦だって、食うに困ってADをやれば、その現場ではADだ。
(実際にそんなことは、まず有り得ないが)

238: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 09:04:36.90 ID:k1pcCBUo
仕事って厳しいよな
その分燃えることもあるけれど…

納得できない、理不尽な扱いや
他人の意地悪やいやな気持ちが流れ込んでくると
すべてを消去して逃げ出したくなってしまう


242: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 09:06:57.72 ID:KQ5xjk6o
そして当時の俺は、以前にも増して大忙しであった。
パブのディレクター。川田さんのAD。中継の仕事。
その他、人手不足の番組の手伝い等々・・・。

そんな状況であったので、川田さんと顔を会わす機会も減っていく。
この日は本当に久しぶりに、川田さんと飲んだのである。

まずは乾杯。川田さんはピッチが早い!
俺も必死に付いていく。
この人は俺が同じ量の酒を飲まないとスネてしまうのだ。

俺は彼女が出来たことを、川田さんに報告した。

「マジかよ。仕事忙しいくせにお前も変態だね~。」
ニヤニヤしている。

そして当然のごとく
「写メ見せんか!コラッ」と言われた。

この業界において、縦の関係は絶対である。
俺に断る権利は無いのだ。

素直に写メを見せる俺。

川田さんは驚いた表情で
「マジか!?お前がこの可愛いねーちゃんとかっ!!」
かなり動揺しているな・・・。

267: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 09:43:00.03 ID:KQ5xjk6o
下好きの川田さんだ。次の質問は決まっていた。
「もうカイた(した)?」
目は意外とマジである。

「いえ・・・。まだカイていません。」

「ムネはどうなんだ?ちゃぃちいのか?(ムネは小さいのか?とい意味)」
                   ↑
これは川田さん言っていません。俺が業界用語で遊んでみましたww
こんな化石の様な、業界用語を言う人間いないですww

「いえ。ムネは・・・でかい・・・です。」
実に素直な後輩といえよう。

散々品がないネタで盛り上がったところで
ふと川田さんが真顔になった。


272: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 09:49:18.80 ID:KQ5xjk6o
「ところでよぉ。二宮・・・。」
「はい」

「俺は今度、フリー集めて会社興すんだわ」
「へぇー。そうなんですか?」

よくある話だ。

1人でやるより、お互いが仕事を持ち寄れば
その分仕事の幅は広がる。
人数が多ければ、大きな仕事も請けやすい。

ただフリーはプライドが高く、気分屋も多い。
それを1つにまとめるのは大変なことだ。

川田さんにしては、珍しくためらいながらこう言った。
「それで・・・。お前、俺の会社に来ないか?」

「えっ・・・・!!」
俺は絶句した。

まさか自分にそんな誘いが来るとは、夢にも思っていなかった。

「お前を引き抜いたとなると、俺もお前の会社の仕事はもうできねぇ。
それでもお前・・・。来ないか?俺んとこ」

274: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 09:52:10.53 ID:LEnN4/6o
入社1年目を引き抜こうとするとは
冒険家だなあ

276: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 09:57:12.56 ID:KQ5xjk6o
>>274
本当だよね。
この時の川田さんは
俺を戦力としては見てなかったと思う。

だた本当に可愛がってくれて・・・。
「あんな会社ダメだよ。
俺がディレクターにしてやんよ!」

っていう師匠の愛情だったと思う。

278: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 10:02:23.86 ID:KQ5xjk6o
正直嬉しかった。
めちゃめちゃに嬉しかった。

自分の利益を削ってでも
こんな新人の俺を、欲しいと言ってくれたのだ。
俺を拾ったところで、数年は戦力にならない。

それを承知で、川田さんは俺を誘ってくれたのだ。
そんな気持ちに応えたい。
なんていっても川田さんは、俺を蘇生させてくれた恩人だ。

そして師匠だ・・・。

しかし・・・。

俺はまだまだ、あの会社で勉強したいことが山ほどあった。

それに・・・。
川田さんに付いていくには勇気がいる。
ある程度の安定した会社を離れるのだ。

川田さんには失礼だが
川田さんの会社が成功する見込みは、今のところ全くわからない。

そして・・・。
おふくろだ。
俺の就職が決まった時、あれだけ喜んでくれたおふくろ・・・。
おふくろのことを考えても、今は会社を辞める時期ではない。

290: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:09:18.30 ID:LEnN4/6o
>>278
普通はそう判断するわな

295: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:12:53.96 ID:JD7cMHco
難しい選択だな。
仕事に慣れて自信を持ってからでないと
転職はかなり無謀だしな。

師匠の気持ちは嬉しいけどな。

289: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 10:09:00.22 ID:KQ5xjk6o
俺は居酒屋の床に正座をすると、深々と頭を下げた。
「すいません。川田さん!今の会社に残らせて下さい!」

縦の関係が絶対であるこの業界において
先輩であり、師匠である川田さんの誘いを断るのだ。

これ位は当然の礼儀である。

川田さんは焦ったように
「お前なにやってんだよ。分かったよ。はよ立て。
みんな見てんだろ。恥ずかしいじゃねーか」と言って
俺を引っ張り起こしてくれた。

そして川田さんは忠告してくれた。
「お前は大事な時なんだ。今の会社で全力でがんばれよ!
んで、こんな時期に落とし穴があるんだ。それに気を付けろ。」

この川田さんの忠告は、後に的中する。

そしてこの時
川田さんの誘いを断ったのは、結果的に失敗であった・・・。

291: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:10:38.95 ID:LEnN4/6o
>>289
なんだと・・・?

297: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 10:14:36.43 ID:KQ5xjk6o
仕事というものが、俺の中で大きく変化している時期であった。

俺も渡辺も、そして他の同期も
もはやミスを起こしても、新人では許されない時期にきていた。

そんな中で、渡辺が大失敗を起こしてしまう。

その日、俺がポスプロから帰ると制作部の同期が近づいてきた。

「渡辺がなんかすごいミスをしたようだよ」と教えてくれた。

まずは彼氏に報告といったところか。
彼氏ではなく、ただの隣人なのだが・・・。

「ミスってどんなミス?」
俺は驚いて聞いてみた。
あの冷静沈着な渡辺が、そんなに大きなミスをするとは考えにくい。

「よく分からないけどラッシュ(撮影済みテープ)をダメにしちゃったみたい」
この同期も、事情は詳しく分からない様子だ。

俺はすぐに技術部にいった。

あの同期の言ったことが本当なら、大変な事態である。
この業界において、ラッシュは命ほど大切なものである。

まだ詳しい事情は分からないが
もしこの話が本当であれば
間違いなく取り返しがつかないミスだ。

298: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:16:45.19 ID:Gahy3t.0
幸せなときの二宮を読むのが楽しいけど…

全部気になるよね

304: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 10:25:50.31 ID:KQ5xjk6o
しかし技術部の部屋に、渡辺の姿は無かった。
俺はそこにいた、技術部の同期を捕まえて話を聞いた。

「渡辺がラッシュをダメにしたって本当なの?」

そいつは事情を詳しく知っていた。
「うん。海水につけちゃったらしい・・・」

話のあらましはこうである。

その日渡辺は、ディレクター孤高の天才田畑さんと、
カメラマンは、恐怖の大宮さんというメンバーでロケに出ていた。

俺ならばそんなメンバーでのロケは、丁重にお断りしたいところである。

某大物タレントを使ったロケであった。
タレントが絡むシーンを全て撮り終わり
タレントをバラした(先に帰すこと)後、インサートカット(情景や差し画)を撮影していた。

場所は海辺の防波堤で、日の入りのシーンだったという。
大宮さんが「ニューテープを出せ」と渡辺に指示。

渡辺が慌ててリュックから、ニューテープを出そうとした瞬間。
リュックの中の荷物がバラバラと海の中へ落ちた。

その中にラッシュが混じっていたそうだ。

海水から拾い上げたテープを引っ張り出し
布で拭いたそうだが、そのテープから映像が映し出されることは無かった。

309: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:28:37.99 ID:etzb9gAO
うわぁぁ 渡辺やっちまったな…

310: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:29:14.75 ID:qmd0G1w0
ああああああああああああああああああ
渡辺…渡辺…渡辺ぇぇぇぇぇぇっぇぇ!!!

305: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:26:59.15 ID:JD7cMHco
入社したばかりのミスは数万でも
仕事を任されるようになれば
ミスが数十万、数百万なんてのは
ザラだからな
((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

313: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:30:13.06 ID:OLmPw0M0
俺だったら海に飛び込むな

315: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:31:36.68 ID:k1pcCBUo
早くしろよ
とか急かされると、急に注意力散漫になってしまうよな

うるせーな、ちょっと待ってろボケ
くらいの大物だとそうでもないかもしれんが…


渡辺いい奴なんだろうな…
一生懸命サポートしようとして
ちょっと焦っただけなんだろう

320: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 10:34:27.19 ID:KQ5xjk6o
>>315
日の入りは止められないからね。
大宮さんも早目のテープチェンジをするべき
だったと思う

316: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 10:33:23.25 ID:KQ5xjk6o
渡辺はすぐにテープの発売元に電話にをした。
事情を説明して返ってきた答えは
「海水は無理ですね・・・。真水でも相当厳しい状態です」
という切ないものであった。

責任感が人一倍強い、渡辺の心境を思うと胸が痛む。

とにかくこうなってしまった以上
考えられるのは再撮影である。

しかしタレントのスケジュールは押さえられるのか?
相手は大物である。
スケジュールはビッシリであろう。

しかしこっちにもO.Aがある。
テレビ番組はどんなにあがいても、納品を延ばすことが出来ない商品だ。

それに間に合うように
タレントを押さえるのは、かなり難しい作業と思える。

奇跡的に押さえたとしても、二重のギャラが発生する。
責任は全てこちらにある。当然のことだ。

しかしこれも頭が痛い。
完全に予算オーバーとなるだろう。

318: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:33:45.76 ID:O2.MCMAO
大物タレントを使ってる時点で制作費は半端ないだろうな…とずぶの素人が予想。

324: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 10:38:06.16 ID:KQ5xjk6o
しかも最悪なことに
そのラッシュには大宮さん渾身のカットが入っていたそうだ。
特機(特殊機材)を多用し、何日も前から準備をしていたという。

撮影は基本的に最初が1番良い。
インタビューひとつでも
最初と2回目では、タレントやスタッフのノリが違う。

いくらプロでも「あーあ。やり直しかぁ」という気持ちはどうしても抑えられない。
長時間掛けて撮影をしたものと、全く同じことをするのだ。
無理もないだろう。

そして天候もあれば、全ての条件が最初と同じになるは難しい。
映画ならば日待ち(太陽が出るの待つ)もするが
番組ではなかなかそうもいかない。
どうしても、最初の方が良かったというカットが出てくる。

それらのことを考えれば
これは俺の起こしたミスにも匹敵する。

俺は今の渡辺の立場を考えると、胃がキリキリと痛んだ。

その時、渡辺が技術部の部屋に入ってきた!

336: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 10:46:23.64 ID:KQ5xjk6o
顔面が蒼白である。
俺はこんな渡辺を見たことが無かった。

「渡辺・・・。お前ラッシュ・・・」
渡辺はかなり無理な笑顔をつくる。

無理しなくていいから!
別に笑わなくてもいいから!!

「うん・・・。大丈夫・・・だよ」

そういって渡辺は、持っていた荷物をロッカーに入れると
「なんか会議をするみたい・・・。スタッフで。行かなきゃ・・・」
そう言って部屋を出ていった。

会議・・・。それは事態の深刻さを物語っていた。

渡辺の問題は、会社レベルにまで発展している。

悔しいが俺のような新入社員には
力になれることが何もが無い。

俺は自分のデスクに戻ると
メールの受信に気づいた。まりあからであった。

「今日ゎぉ仕事ぉそぃですカ?(’ー’*)ノ」

337: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:47:10.19 ID:/Nuqy5U0
まりあw

353: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 10:54:27.23 ID:KQ5xjk6o
仕事はヒマでもなければ忙しくもない。
帰ろうと思えば21時には帰宅できる。

俺は渡辺が心配であった。
なんとか励ましてあげたかった。

しかしそれをまりあの誘いを断る理由にするのはおかしい。
付き合って下さいと、お願いしたのはこの俺だ。
ずっと大切にすると、心の中で約束したはずだ。

しかもここ最近は、仕事の忙しさですれ違いが多く
ゆっくりと会うこともあまり無かった。

俺はまりあに「21時に帰ります」とメールを送った。

「(o・。・o)りよぉーかぃ♪シ(*^・^)CHU~☆つくってまってます(≧∇≦)ノ」

シ・・・チュー・・・かな?

358: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:55:28.18 ID:X0Ms2G60
シ(*^・^)CHU~☆wwwwwwwwww

344: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:50:18.28 ID:CsgqzCs0
まりあの小文字にどうしても馴染めないのは俺だけか

354: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:54:29.28 ID:k5KWvkDO
>>344
ぉれもだょ☆ゞ(#^∀^)ノ

357: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 10:55:18.32 ID:CsgqzCs0
>>354
がっちり使いこなしてんじゃねーかwwww

361: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:00:44.10 ID:OEkNbKoo
このメールって残ったメールそのまま書いてるの?
それとも二宮が思い出して書いてるのかね?

367: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:05:38.29 ID:KQ5xjk6o
>>361
大体の記憶ですね。
メールは毎日見てたし完全にコピーできますね。

とりあえず母音は小文字。
「か」はなぜか「カ」

シ(*^・^)CHU~☆は記憶に残っていたものです。
ただし顔文字はコレと違うと思います。

こんな感じですかね。

364: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:02:30.38 ID:KQ5xjk6o
俺はまりあが待ってくれている喜びを感じていた。
仕事の終わり時間を、メールするなんて・・・。
まるで新婚カップルのようではないか!

しかしそんなことはどうでも良い。
いま心配なのは渡辺である。

渡辺の話は今晩、部屋を訪ねて聞いてみることにした。

「おかえりなさい!」
部屋に行くと、まりあが満面の笑顔で出迎えてくれた。
仕事の疲れが一気に吹き飛ぶ。

更には、またしてもエプロンなんぞをしてやがる。

可愛すぎてムカつくという感情を、俺はこの時はじめて体験した。

ビールで乾杯をしたあと
俺たちはまりあが作ったシ(*^・^)CHU~☆を食べた。

まりあの作る料理は、カレーに限らず全てが美味かった。
おふくろの作る料理にすら肉迫している。
これは将来が末恐ろしいミスター(ミス)味っ子であるといえよう。

372: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:11:11.07 ID:KQ5xjk6o
「光輝くん明日は早いの?」
そう言ってまりあが俺の前に麦茶を置いてくれた。

「明日は早朝ロケだよ。5時起き」

「大変だね。起こしてあげようか?」
この夫婦のような会話が実に喜ばしい。

「いや。いいよ。まりあも眠いだろうし。寝てな。」

俺はロケなら、どんな時間でも1人で起きられる。
逆に3日ほど寝ていなくても行ける。
業界の人は、みんなそうだろうが・・・。

「う~ん。でも起こしてあげるね!」

う~ん。カワユス・・・。

「今日は早く寝なきゃだね」

「そだね。そろそろ部屋に帰って寝るよ・・・。」

俺は渡辺の部屋を、訪ねることを黙っていた。
特に大きな理由はない。

完璧主義の渡辺のミス。
それをまりあに話すのが、渡辺に申し訳ないような気がしたのだ。
俺が逆の立場でも、やっぱり黙っておいて欲しい。

「ごちそうさま」
そういって俺は立ち上がった。

375: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:14:21.86 ID:k1pcCBUo
だけど一言断らないとマズイだろ
女ってのはココロが弱い生き物なんだぜ


それが高じてウザイになる奴もいるが…

376: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:16:08.74 ID:LEnN4/6o
>>372
死亡フラグか

他意が無くても彼女以外の♀に会う時は彼女に報告しておいたいいってアドバイスあるよな

378: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:16:43.43 ID:KQ5xjk6o
「明日がんばってね!」
そういうとまりあは、俺にキスをしようとしてきた。
自然にしているようだが、なんとなくぎこちない。

よくドラマなんかで観る
「行ってらっしゃい!アナタ♪」チュッ♪
ってのを再現したいのだろうが・・・。

まりあは俺の唇の位置を、ロックオンするのに手間取り
それを外さないように、ソロソロと唇を近づけてくる。

俺も
「キスが来るっ!」と
どうしても分かってしまう。

でもそんなまりあのキスは可愛かった。
俺は自分の唇と、まりあの唇が触れるのをジッと待った。

385: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:21:09.09 ID:/Nuqy5U0
何だこの胸を締め付けるものは・・

386: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:21:42.22 ID:KQ5xjk6o
「おやすみ。ごちそうさま。」
そう言って俺は302号を出た。

そしてその足で304号のインターホンを押した。
自分だけが浮かれているわけにはいかない。

同期が苦しんでいるのだ。
俺には何もしてあげることは出来ないが・・・。

「はい・・・?」
304号のドアホンから渡辺の声が聞こえた。
よし!帰っている。
「二宮だけど。ちょっと話があって・・・」

すぐに304号のドアが開いた。
「二宮くん・・・」

渡辺の顔色は、会社で見て時よりも幾分良くなっていた。
しかし元気がないのは、ありありと分かる。

「とりあえず中にどうぞ」
そういって渡辺は俺をリビングに入れてくれた。
向かい合って座る。

390: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:26:51.11 ID:KQ5xjk6o
「どうだった?会議?」
おれは少し遠慮気味に聞いてみた。

「うん・・・。とりあえず制作さんが、再撮影の準備を進めてくれる・・・。」
そうなのだ。
この業界で技術のミスは、最後に制作に廻ってくる。

自分でどうにか出来れば、渡辺も少しは気が楽だろうが・・・。
しかし技術の人間に出来ることは、撮影現場にしかないのだ。

「少しは元気・・・出た?」

「うん・・・。でも元気は・・・ないかな・・・。」
渡辺の弱気な発言は極めて珍しい。
そうとう落ち込んでいるのが分かる。

「落ち込むなよ。リュックから荷物が落ちたんだろ?
それは不注意といえばそれまでだけど・・・。仕方ない部分もあるよ。」

俺の言葉を聞いて、渡辺は静かに首を横に振った。
「私がね。落ち込んでいるのは・・・。もっと別の部分・・・。」

なんだろう??

394: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:29:56.30 ID:zxG7r8w0
なんだ?

395: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:30:21.83 ID:SBscRgMo
渡辺「油田くんに告白されたの・・・」

397: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:31:02.35 ID:1eu8L/Y0
渡辺「私もまりあのことが…」

406: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:33:37.62 ID:KQ5xjk6o
「テープがね。海に落ちた瞬間・・・。
私ね、一瞬体が固まったの。どうしよう!!ってね。」
そりゃそうなるだろう。

「でもね・・・。田畑さん早かった。次の瞬間には海に飛び込んでいた。
きっと考えるよりも先に、体が動いたんだね。
もちろん田畑さんの携帯は壊れて、財布もズブ濡れ・・・」

あの人ならあり得る。
あの天才が1本の作品に掛ける執念は異常なくらいだ。
それは一緒に組んだことのない俺でも分かる。

「私ね。甘いなって思ったの。
作品に掛ける情熱が田畑さんの足元にも及んでいない。
自分では頑張っているつもりだったけど
私はやっぱり作品をそこまで愛していなかった・・・。」

渡辺は小さな声で言った。
「それがね・・・。悔しいの・・・」

真面目過ぎるよ。渡辺・・・。

408: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:34:56.37 ID:S2Riyak0
なんて真面目なんだwwwww
おまえらの予想とは大違いだwwwwwww

409: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:35:52.70 ID:QyKDDwDO
いいシーンなのに、お前らのせいで噴き出してしまったwwwwwwwwww

412: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:38:19.15 ID:SBscRgMo
作品に掛ける情熱や愛が合っても
実際のその現場で海に飛び込める人間なんて
ほんの一握りなんだろうけど

・・・実際それを目の前で見ちゃうと悔しさが出てくるだろうな

413: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:38:37.49 ID:KQ5xjk6o
あの田畑さんのテンションで、1本の作品に向き合うなんて
誰にもできないよ。
少なくともあの会社では誰もいないよ。

それに制作と技術では、仕事の形態が違いすぎる。
制作は作品の生い立ちから、O.A終了までが仕事だ。

その中には様々な工程がある。
その工程の中で、技術が関わる部分は撮影現場だけである。
制作と技術で、1本の作品に対する情熱が変わるのは仕方がないことだ。

渡辺の心意気は素晴らしいと思う。
でもそれはあまりにも無理があるよ。

「渡辺。お前疲れるぞ・・・。その考え方は」

渡辺は下を向いて
「そうかもね・・・。」
と呟いた。

俺は最後に
「元気出せよ・・・。」
そう言って立ち上がった。

渡辺は
「ありがとう・・・。」
と言って考えこんでいた。

俺はソッとリビングを出て
304号の部屋のドアを開けた。

その瞬間、302号のドアも同時に開いた。
中からは当然、まりあが出てきた。

俺とまりあの目が会った。

416: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:39:19.16 ID:AjkRE.I0
修羅場の予感

425: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:42:15.56 ID:iKyUZrQo
単に読んでるだけなのに
この冷や汗はなんだ…。

426: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:44:11.94 ID:KQ5xjk6o
今にして思えば、円滑に回っていた公私の歯車が

少しずつ・・・。

少しずつ・・・。

ズレ始めたのは、この瞬間からだったのかもしれない。

まりあがキョトンとした顔で俺を見ている。

やばい・・・。
何か言わないと。
やばい・・・。

俺はまりあの部屋を出る時に、すぐに寝ると嘘をついていた。

「・・・なんで?」
先に口を開いたのはまりあだった。

俺はついとっさに
「渡辺を慰めようと・・・」と言いかけて言葉を飲んだ。

そうだ。
今回の渡辺の件はまりあには話していない。
いや。話しちゃいけないんだ。

428: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:46:21.57 ID:O2.MCMAO
バカwwwwwwwwwwwwちゃんと言えよwwwwwwwwww

429: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:46:29.28 ID:b8ktzao0
ああもう、この真綿で締められるような感覚といったら !

この辺で勘弁してほしい。でもやめないでほしい。

430: 二宮 ◆htHkuunP2I 2008/06/25(水) 11:46:45.37 ID:KQ5xjk6o
「仕事の打ち合わせ・・・。」
出た言葉は我ながら嘘臭かった。

仕事の打ち合わせなら、会社ですればいい。
会社で出来なければ、電話ですればいい。

時間は23時。

同期とはいえ
1人暮らしの女の子の部屋に行って、話す時間では無い。

何かを考えている表情のまりあ。

しばらくの沈黙があった後
「そう・・・。私コンビニ行ってくる。おやすみなさい」

まりあそう言ってエレベーターに姿を消した。

434: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:49:48.23 ID:9zka6wSO
結論:いかなる理由であれ嘘はよくない

435: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:49:49.59 ID:zogrSako
ちゃんと説明しなくちゃ伝わらないんだよな。
若い時はそれがわからない。

想いは言葉にしいと伝わらない。
言葉は相手に伝わらなければ意味が無い。

「起きれなかったら起こしたことにならねえよカーチャン!!」
と同じ理屈なんだよ。

437: 以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします 2008/06/25(水) 11:51:16.68 ID:SQJpKxY0
部屋までいって慰めるっていうのはなぁ・・・
まりあが逆にそんな事してたらつらいって思うもんだけど
ニノの気持ちもわからんでもないww

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